トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅12畳の部屋に80センチウーハー2本の4ウェイマルチ

12畳の部屋に80センチウーハー2本の4ウェイマルチ



 強く印象に残っているお客さん


 M.Mさんは1年ほど前に、いきなり『電源タップのナイアガラを購入したい』と、お電話を頂いた事で凄く印象に残っているお客さんであります。

 具体的には、壁コンからタップ用にAC-RG2、DAコンバーター専用の電源ケーブルのAC-DA614、そして、デジタルケーブルのDIG-B7も含めての指名でした。

 当社のウェブやオーディオ雑誌の紹介記事等からの判断なのでしょうが、100万円にもなろうかという金額にも拘らず、見ず買い、聞かず買いの注文行為には驚きを隠せません。


 全体のバランスや機能を考えて、唯一アドバイスさせて頂いたのが、デジタルケーブルのDIG-B7からDIG-KAISER SOUNDへの変更でした。


 我流でやってこられたという大型マルチ


 システムの概要をお聞きすると、『一人であれこれやっていて、我流の域を越えません』と仰っておられたので、いつか機会があればクリニック訪問をと思っていました。

 マルチシステムでは、この最近お世話させて頂いたPMC/BB5がありますが、2年がかりの4回にも及ぶ入念なクリニックとセッティングによって素晴らしい音になりました。

 その好感触がきっかけとなったのだろうと思いますが、M.Mさんのシステムを無性に聴いてみたくなり、私の方からの訪問と相成った訳です。


 物置を改造したオーディオルームは、一般の12畳の部屋とは違っていてほぼ正方形。その部屋の主の特徴はミッドローのホーンが100Hzまで受け持つかなり珍しい4ウェイの大型マルチシステムです。

 ちなみにその分割帯域は、下から100Hz、500Hz、7kHzであります。ユニットのサイズからするとこの振り分けは申し分ありません。この判断が大変素晴らしいので、今日のセッティングに対して何とか音が作れるであろうと安堵した次第です。

 余談として口を開けますと、チャンネルディバイダーに他のサウンドカードがあるのかどうかは知りませんが、私のイメージでは、ミッドローの折り曲げホーンの受け持ち帯域をもう少し広げる方向の600、700、800も有りだと思います。


 優、良、可、で言うと”良”の音


 4つの巨体が目の前に立ち塞がるようなこの光景を一般の人が目にしたら、一体どんな反応を示すのでしょうか?。そんな事にも頭が回ってしまうほど、圧倒されるシステムであります。

 倍音こそ引き出せていませんが、我流と言われる割には良く出来ています。私独自の点数評価はノンプロの5番バッターといったところです。そうです、4番でないところが味噌であります。

 それにしても、この巨大なシステムで『ボーカルを上手く鳴らしたい』と仰るのですから、怖いもの知らずと言うか、「素人さんは恐ろしい事を口にしてくれるなぁ・・・!」と、頭の中のもう一人の私がつぶやいております。

 「言うは易く、行なうは難し」です


 逆相の使いこなし


 音作りのポイントは幾つもありますが、今日に限っては設置するだけで一杯一杯。特にホーンセクションの位相揃えは、専用の置き台かスタンドを作らない限り事実上不可能です。

 従いまして肝となるのは、逆相を用いてどう合わせ込むかにかかっています。チャンネルディバイダーに装備されている位相反転スイッチを使って判断しますが、頼りは鍛え抜かれた経験豊富な耳しかありません。

 ただ、ユニット間のフェイズ合わせだけでしたら出来る人はそこそこいますが、ユニットを起点にして部屋との位相合わせまで出来るかという事になるとそれは皆無状態なのです。


 ウーハーの位置調整による辻褄合わせ


 特にウーハーに関してはよく動かせても10センチ程度です。そんな状況の中でも、僅かな移動で合わせ込む事は可能です。

 塞ぐ面が半端ではなく広いので、間接音としての反射波に焦点を向けない限りは良い音を紡ぎ出す事は難しいです。

クリニック前
クリニック後

 今回のキーポイントは、ウーハーの位置調整によって全体との辻褄合わせを取る方法ですが、これはあくまで善後策として取ったものであります。


 気流の動きと振動の同期の合わせ込み


 更にもう一つの鬼門としては、気流の位相共々柔な床が引き起こす振動の節と腹の振幅周期をも合わせる技術が要求されるのです。

 この特殊技術はカイザーサウンドにしか出来ないF難度級であります。この両者をコントロール出来た時はどなたも体験した事のない歓喜のスイッチが入ります。


 ホーンの上にホーンを載せている


 ミッドローのホーンの上にミッドのホーンを載せているので、お互いの振動が邪魔をしてホーンの開放端がきれいに響きません。出来ることならホーンの設置スタンドをワンオフで作りたいものです。


 その代わりの対策として、ドライバーとウッドホーンの取り付け部にHummingbirdを貼るのに打ってつけのスペースがありましたので、これ幸いと思って取り付けますと、予想通り素晴らしい効果を発揮しました。


 難しいマルチを簡単にするノウハウ


 ゼロからの話としてセッティングを根こそぎやるとなると、最初のボタン掛けをどこから始めるかに話が戻るのですが、おいそれとすぐに出来る訳ではありませんので、今日のところはその話は置いておかなければ前に向いて進みません。

 そうは言っても口を開け始めた訳ですからその最初のボタン掛けという意味とはこうです。足固めの一番の仕事として、ミッドローを受け持つホーンの位置決めを、部屋とのカイザーウェーブの辻褄合わせをする中で決めます。

 四つあるボタンですが、下から二番目を最初に掛ける。ここらあたりがオーディオのセッティングを易しくする方法でありノウハウなのです。

 その理由は簡単で、ミッドーローをフルレンジに見立てて鳴らしてやると、普段の日常生活に於いて聞きなれている耳が判断間違いを犯し難いのであります。


 スピーカーと各機材の相性がバッチリ


 カウンターポイントのパワー二組で中高域、Ayreの二台のパワーをミッドローとウーハーに組んでいますが、適材適所としての相性が素晴らしく見事に決まっています。


 ここに来るまでに色々と紆余曲折があったのだろうと思いますが、耳の良さと運で引き寄せたにしてもこれだけ相性の良い機材の組み合わせはちょっと珍しいです。


 トランスポートはエソテリックのP0、DAコンバーターがSoul Noteのdc1.0。どこでどうしてこんな組み合わせになったのか、時代がまったく違う機器が、ベテラン、中堅、若手と見事に上手くまとまっております。


 dc1.0に関しては、その場でモディファイを提案し施しました。主なその内容は、基盤間を繋ぐマルチコネクターケーブルの方向性をチェックしての組み直し、30ヶ所余りのネジの加速度組み立てです。


 好みがハッキリしているのでやり易かった


 クリニックの進め方ですが、問題を提起し、一つ一つ処置しては音の変化具合が自分の好みとする方向に向かっているかどうかを確認して頂きながら行ないました。

 特にボーカルに拘りを持たれていて、『端正な中に見え隠れするほのかな色気が欲しい』。『豊満な色っぽさは好まない』。このように自分の好みの音を持っていらっしゃるから、ある意味こちらにとっては凄くやり易かったです。

 最後にP0の専用脚をお勧めして買って頂き、これは後日お送りする事で今回のクリニックは完了です。


 今後の方針は決まっている


 『機材の買い替えは今後何一つ予定になく、またそのつもりもない』とハッキリ口にされるM.Mさんには迷いがありません。

 『音のプロの手ほどきを受けるのは初めてですが、色々な悩みから開放され、好きな音楽を聴くことに没頭出来るようになりました』と喜んで頂けました。

 これからは、ケーブルをメインにインシュレーター等周辺の物で仕上げに掛かりたいとの考えを持たれているようなので、今回のクリニックは渡りに船でちょうど良かったみたいです。

 私がちょっと気になったのは、システムの割りにソフトの枚数が少ない事ですが、これからはソフトの枚数が凄い勢いで増えて行くのではないでしょうか。


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